いちごの形をつくるハチ — いびつな実は、受粉の物語だ

著者 ICHIGO Editorial · 公開 2026年5月28日 · 8 分で読了

いちごの白い花にとまるミツバチ。黄色い花心、まわりの葉と色づき始めた実。アンティーク植物画風

いびつないちごを手に取ってみる。片側はゴツゴツ、反対側はくびれて種ばかり。これは病気の株でも、悪い品種でもない。受粉のやり残しだ。そのゴツゴツした実は、ハチがどこを訪れ、どこを訪れなかったかを、果実そのものに刻んだ記録なのである。理由を知るには、ひとつの奇妙な事実を押さえる必要がある。いちごは本当は「一つの果実」ではない。何百もの果実なのだ。

いちごは、果実の群れである

植物学的には、いちごは 集合果(aggregate accessory fruit) と呼ばれる。あなたが食べる甘く赤い果肉は、じつは果実ではない。膨らんだ 花托(かたく)、つまり花の軸の先端だ。本当の果実は、誰もが「種」と呼ぶ、表面の小さなツブのほうである。その一つひとつが 痩果(そうか) という独立した一粒の果実で、いちご一個には20〜500個ものツブがついている。

これが効いてくるのは、花のつくりのせいだ。いちごの花には 数百本もの独立しためしべ——受精を待つ数百の小さな子房——がある。受精しためしべは、それぞれ一つの痩果になる。そして、すべてを決める仕組みがこれだ。受精した痩果は植物ホルモンの オーキシン を出し、そのすぐ下の花托の果肉に「膨らめ」と指令する。受精しなかっためしべは何も出さないので、その周りの果肉は平らなまま残る。

いちごの開いた花、中央に多数のめしべ。金の矢印が、隣に描かれた完熟果の表面の種(痩果)一つひとつへ流れる植物図解
受粉しためしべは一つの種になり、その下の果肉に膨らむよう伝える。

つまり、いちごの形は文字どおり「受粉の地図」だ。すべてのめしべを均一に受精させれば、花托は均一に膨らんで、なめらかでふっくらした円錐になる。どこかを取りこぼせば——花が開いている2〜3日のあいだに、そのめしべへ花粉を運ぶ送粉者が来なければ——その部分はただ膨らまない。結果が、あのゴツゴツ、くびれ、ねじれだ。植物学者ジャック・ニッチュは1950年に、この点をきれいに示している。育ちかけのいちごから痩果をこそげ取ると、果肉はこそげ取ったまさにその場所で成長を止めるのだ。

ハチは、風に勝つ

いちごの花粉は、わずかには自力でも、わずかには風でも動く。しかし、昆虫のほうが圧倒的にうまいという証拠は揺るがない。多数の研究を通じて、昆虫が訪れた株の実は明らかに重く、いびつな実の発生率は、昆虫を遠ざけた株で 3倍以上 に跳ね上がる。古典的な実験の数字は鮮烈だ。あるポーランドの試験では、奇形果が 自家受粉の72%から、開放した昆虫受粉では約7% まで落ちた。英国や米国の試験でも同じ崩れ方で、作物の半分近くから、7個に1個ほどへと減っている。

アンティーク植物画。左にふっくら均一な受粉良好のいちご、右にゴツゴツねじれた受粉不足のいちご、中央にハチと花
同じ株、同じ品種。違いは、ハチがどれだけ丁寧に花を回ったか。

決定的な研究が、クラットらが2014年に『Proceedings of the Royal Society B』に発表したものだ。9品種にわたって、ハチ受粉・風受粉・自家受粉の実を比べたところ、買い手が気にするすべての軸で、ハチが勝った。ハチ受粉の実は平均で 風受粉より11%、自家受粉より30%重く、受精した痩果が多く、奇形が少なく、赤がより濃く、そして 硬かった

この硬さは見た目の話ではない。日持ちそのものだ。硬いハチ受粉の実は、はっきりと長くもった。貯蔵4日後、ハチ受粉の実は40%が出荷可能なまま残ったのに対し、風受粉は29%、自家受粉はゼロ。合わせると、この研究の市場等級でハチ受粉の実は、一個あたり 風受粉より約39%、自家受粉より約54% 高い価値をもっていた。ヨーロッパ市場全体に広げると、著者らは、2009年にEUで売れた29億ドルのいちごのうち、14.4億ドル分 がハチの受粉によるものだと見積もっている。ハチは、いちごを「たくさん」実らせるだけではない。長持ちして、より高く売れる、「より良い」いちごを実らせるのだ。

覆いの下で育てる、という難題

ここからが、いまの高品質いちごの育て方に直結する。施設栽培——ビニールトンネル、ポリハウス、温室——は、温度・水・病気を管理するうえで素晴らしい。だが、ひとつ厄介なことをする。作物を、本来やってくる野生の送粉者から遮断してしまうのだ。覆いの下で、訪れる昆虫のいない花は、まっすぐあのゴツゴツの未完成な運命へ向かう。

だから施設の生産者は、ハチを中に入れる必要がある。管理用の二大主力は、ミツバチ(Apis mellifera、およびアジアの Apis cerana)とマルハナバチ(Bombus terrestris など)で、巣箱を構造物のなかに直接置く。いちごにどちらが優れているかは本当に決着がついておらず、研究はまちまちで、ミツバチが勝つ試験もあればマルハナバチが勝つ試験もある。だが「必要だ」という点に疑いはない。2023年のある温室シミュレーションでは、いちごの収量と品質がハチの密度とともに上がり、おおむね 1株あたりミツバチ1匹 で頭打ちになった——巣箱を入れる目安として使える数字だ。冬のあいだ覆いの下で高級品種を育てる日本の促成ハウスは、ミツバチの巣箱を「あれば良い」ものではなく、当たり前の標準装備として扱ってきた。

ICHIGOのように、日本品種を施設条件で育てる生産者にとって、これは受粉を、種子の選択やコールドチェーンの規律と同じ位置——運任せにせず、意図して管理すべき品質の要素——に置くということだ。

取り引きの、もう半分

ハチは実をつくる。実を動かすのは、別の動物の役目だ。いちごが赤く、やわらかく、甘いのには、人間とはまったく関係のない理由がある。それは鳥や小さな哺乳類に向けた進化の広告で、彼らが果肉を食べ、硬い小さな痩果を別の場所へ運んで芽生えさせる。ハチの働きで膨らむのと同じ表面の種が、野生の株では散布の戦略なのだ。(生産者にとっての裏返しは、人間より先に鳥やナメクジが喜んでその報酬を回収しにくること——高品質な果実が覆いの下で、しかも短い窓で摘まれるもう一つの理由である。)

あなたが手にしているもの

次に、欠点のないICHIGOの実——そろった肩、深い赤のふっくらした円錐、ガクから先端まで均等に並んだ種——を見たら、それが何であるかを読み取ってほしい。その均一さは、品種だけの手柄ではない(品種も大事だが)。それは、花が丁寧に訪れられた証だ。すべての柱頭に花粉がのせられ、すべての痩果が実を結び、すべての果肉に「膨らめ」と伝えられた。形は、受粉の記録なのだ。美しいいちごの裏には、ほとんどいつも、忙しく働いた一匹のハチがいる。


ICHIGOは株式会社M2labo(エムスクエア・ラボ)のインド登録商標です。インドではM2labo Bharatがミヨシ社のBerry Pop F1品種(SAKURA・HARUHI)のライセンスのもと栽培しています。本記事の科学的な記述は、査読付き文献(Proceedings of the Royal Society B/Agriculture, Ecosystems & Environment/Frontiers in Plant Science/およびNitsch 1950の基礎的研究)にもとづいています。数値はヨーロッパ品種を対象とした研究のもので、その旨を明記しています。

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