まだ、いちごをうまく摘めないロボットの話

著者 ICHIGO Editorial · 公開 2026年5月28日 · 8 分で読了

いちごの葉と花のあいだに伸びる、やわらかな白いロボットハンドが完熟の赤い実をそっと摘もうとする、アンティーク植物画風のイラスト

農業のなかでも、いちごの収穫をロボットに教えるのは、とびきり難しい部類に入る。機械が十分やさしく扱えないからではない。いまの最良のハンドなら、実を傷つけずにそっと包める。難しいのは、もっと素朴な「判断」のほうだ。葉の陰に隠れ、未熟な実が三つも並ぶ房のなかから、たった一粒の完熟果を見つけ出し、その場で「これは食べごろか」を見きわめる。人の摘み手は、これを何も考えずに5〜6秒でやってのける。最先端の研究ロボットでも20秒ほどかかり、それでも熟した実の4分の1ほどを取り残してしまう。

これは、いちごがなぜ自動化を寄せつけないのか、そしてその手強さが「良いいちご一箱」に何が要るのかを教えてくれる話だ。

ロボットがやってくる理由

自動化への圧力は経済的なもので、しかも非常に大きい。手摘みの収穫は、いちご栽培で最大のコストだ。カリフォルニアでは、変動費の 5〜6割 を占める。カリフォルニア大学デービス校の2024年セントラルコースト栽培コスト調査によれば、収穫と収穫後の工程だけで総コストの 約7割 にのぼる。1エーカーあたり約11万2,000ドルのうち、およそ7万9,000ドル。手で摘み、選別し、箱に詰める一連の工程だけで、1エーカーあたり約6万1,000ドルがかかる。摘み手は1時間に3〜8トレイを、一粒ずつ手で収穫していく。

同時に、その労働力は確保もコストも年々厳しくなっている。米国の農場労働者の時給は、物価変動を除いた実質で 2001年から2019年にかけて16% 上昇した。非農業部門の賃金の伸びが5%だったことを思えば、農業の労働市場が逼迫しているしるしだ。事業のなかでもっとも費用がかかり、もっとも人手を要する工程が、同時にもっとも人を集めにくい。ならば、そこに機械を投じたくなるのは当然だ。

では、なぜまだ実現していないのか。

いちごは、なぜこんなに難しいのか

米国農務省(USDA)は、いちごを「機械化が難しい側」に分類している。「使える収穫機械がほとんど、あるいはまったく存在しない」作物として、生食用トマトやレタスと並べているのだ。いちごをとりわけ手強くしているのは、三つの性質である。

  1. 隠れる。 畑のいちごは、ロボットが最初に練習した「台の上から垂れ下がる実」ではなく、自分の葉の下に実る。ロボットには、そもそも実が見えないことが多い。
  2. 房になる。 熟した実と未熟な実が、からみ合って育つ。ほかを動かさずに一粒だけ取り出すのは、カメラにとってもハンドにとっても難題だ。
  3. もろく、熟しつづける。 触れただけで傷み、しかも同じ株の同じ日に、完熟・半熟・青い実が混在する。だからロボットは、ただ収穫するのではなく「選ぶ」必要がある。
3つの植物画:露出した一粒、葉に半ば隠れた実、熟果と未熟果が入り混じった房
ロボットには、易しい→難しい→最難関。露出した実、隠れた実、混在した房。

これをよく示すのが、シオンらの2020年の研究(ノルウェー生命科学大学/Saga Robotics、ノルウェー・英国)だ。『Journal of Field Robotics』に載ったこの実験で、ロボットは 孤立した いちごを96.8%というほぼ完璧な成功率で摘んだ。ところが 実際の農場 では、その数字は 53.6% まで落ちた。失敗の大半は、房になった実。ラボのデモが避けて通っていた、まさにその場面だった。

ロボットはどう「見て」「つかむ」のか

この差を埋めるところに、面白い工学が詰まっている。

見る。 いまの収穫ロボットは、ディープラーニングによる画像認識を使う。YOLO、Faster R-CNN、Mask R-CNN といった物体検出器で実を見つけ、色と大きさから熟度を判定する。日本のある研究システム(フジナガら)は、摘み取りと茎の剪定を同時にこなし、熟果の検出F1スコア0.96、未熟果0.88を記録した。実の位置を空間で捉えるために、色と奥行きを同時にとらえる 3Dカメラ を加える。これで腕は、画像のどこに実があるかだけでなく、どれだけ手前にあるかまで分かる。

葉をどける。 ワシントン州立大学のチーム(ジーシュアン・ハー、マノジ・カーキー、チン・チャン)は2025年、隠れる問題に巧みな手を打った。送風機 である。彼らのロボットは、葉を機械的に押しのける代わりに、ひと吹きの風で覆う葉を払う、初の実規模システムだった。効果ははっきりしていて、同時に謙虚にさせられる。送風なしでは完熟果の58%を摘んだが、送風ありで74% に上がった。確かな進歩だが、それでも4分の1の実が残る。

傷つけずにつかむ。 2026年3月、コーネル大学のオーガニック・ロボティクス研究室(ロブ・シェパード、アナンド・ミシュラ)が、触覚と視覚を統合したソフトな5本指ハンドを『Nature Communications』に発表した。13個のセンサーを備え、物の硬さを感じ取る伸縮性の光ファイバーも含まれる。肝心なのは、実を 引っぱる(傷の原因になる)のではなく、握ってから小さなギア仕掛けの手首で ひねって枝から外す こと。人の手と同じやり方だ。先のシオンのハンドは別の道をとり、指を開いて対象の実を「のみ込み」、隣の実を脇へ押しやった。

2026年、本当の到達点

ここは正直に書いておきたい。宣伝が実態の先を走りがちな領域だからだ。

商用化にもっとも近いのは、フロリダ州タンパの Harvest CROO Robotics(2013年創業)で、その機械は16台の摘み取りロボットを並列で走らせる。2025年4月、同社は実地試験で「商用に成り立つ水準」に達し、「人の収穫と同等」の速度を示したと発表した。ゴールに見えるかもしれない。だが、よく読みたい。これは 第三者による検証のない、企業の発表 であり、実地試験であって、量産規模の本格展開ではない。しかも試験場の農場主は、同社の共同創業者でもある。当面の目標は、次のシーズン開始時に機械を「3台」動かすことだった。

もっとも証拠のしっかりしたシステム、つまりワシントン州立大とコーネルのロボットは、明確に 研究段階の試作機 であって、製品ではない。しかも遅い。一粒あたり 約20秒、人の5〜6秒に対して。世界のどこにも、いちごの摘み手を大規模に置き換えるロボットは、まだ存在しない。いちごは、まだ「解かれて」いない。

これがICHIGOにとって意味すること

ロボットが懸命にやろうとしていることを、よく見てほしい。この葉の下の、この一粒を調べ、食べごろかどうかを決める。このつかむでも運ぶでもない「決める」部分こそ、ICHIGOが摘み手に叩き込んでいる判断そのものだ。

最初のジャーナル記事に書いたとおり、いちごが客の口に届いたときの味を最も大きく左右するのは、株を離れた瞬間の色だ。ICHIGOの摘み取りの窓——深い赤、まだ硬い、インドの慣行より1〜2日早いタイミング——は、訓練された人の目が一日に何千回もくだす判断である。それは、50万ドルのロボットがいまだ4分の1の確率で外す、まさにその判断だ。

機械が本当に使えるようになれば、私たちは正しい理由で使う。品質の安定と、業界全体が抱える労働のボトルネックの緩和のために。だが、間違った実を速く摘むロボットは、正しい実を摘む訓練された人より劣る。高品質ないちごにとっては、いまも、そしてこの先しばらくも、決め手となる道具は人の目だ。

手のひらにのせた、ガクのついた完熟いちご一粒。やわらかな背景

300年の育種が、遺伝の素質を種子に込めた。最後の十数センチ——手からガクまで、「これだ」と見きわめる0.5秒——は、まだ私たちのものである。


ICHIGOは株式会社M2labo(エムスクエア・ラボ)のインド登録商標です。インドではM2labo Bharatがミヨシ社のBerry Pop F1品種(SAKURA・HARUHI)のライセンスのもと栽培しています。本記事の技術的な記述は、査読付き文献(Journal of Field Robotics/Computers and Electronics in Agriculture/Nature Communications)、USDAおよびUC Davisの経済調査、各社の公表情報にもとづいています。企業による性能主張は、その旨を明記しています。

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